藪井智一 アーカイブ
発売直後のヒットから⾧く愛される商品へ
3 年目で見えてきた新しい景色
――「はにわぷりん」とはどのような商品なのか、改めて教えてください。
当社の居酒屋で提供していた「壺焼きプリン」が原型で、打ち合わせの席で出たアイデア
を商品化したものです。
仁徳天皇陵などの古墳が多数点在する地元(堺市)にちなんだデザイン性とストーリー性
を兼ね備えた商品に仕上げました。
――2018 年末の発売後まもなく SNS やメディアなどで話題となり、爆発的なヒット
を記録したそうですね。
「はにわぷりん」のデビューは、古墳フェスでの試験販売。
イベント会場の露店で販売したところ、用意した 500 個がたった 4 時間で完売。
独特の世界観が Twitter で話題になり、メディアからの取材が殺到して、
いわゆるバズる状態に。
発売と同時に EC サイトはパンク状態に陥り、注文の電話やメールが鳴り続ける
日が続きました。これには本当に驚きました。
もちろんたくさん売れて欲しいと願っていましたが、1個 650 円のプリンが
そう簡単に売れるはずがないと心のどこかで感じていたのも事実で、
ほんとに?なんで??というのが正直なところ。
毎日作るのに精一杯で、ヒットの要因を考える余裕さえありませんでした。
――華々しいデビューを飾ったあと、1年目はどんなことに注力しましたか?
はじめの 4 ヶ月は、生産が追いつかないほど注文が殺到し、
物販事業と飲食事業の両立にかなり苦労しました。
飲食事業に支障が出ないよう人員配置やオペレーションの試行錯誤を繰り返し、
スタッフ全員フル稼働の毎日でしたね。
現場のやりくりに追われるなか、百舌鳥古市古墳群の世界遺産登録を機に、
堺市の PR キャラクター「ハニワ部⾧」とのコラボ商品も誕生しました。
催事の出店依頼もたくさんいただき、有難いことに出店先を
選べるような状況が続きました。
順調に事業が拡大する一方で、気持ちの上では半信半疑のまま。
とにかくついていくのに必死で、企画商品や催事の波に呑まれそうに
なりながら現場の陣頭指揮に全力を注ぎました。
そんな調子で、いつも目の前のことで頭がいっぱいでしたね。
先を読むとしても、数ヶ月先が見える程度で、半年先、1 年先を
見通す力がありませんでした。だから当時は、順調に数字が積み上がっていても、
新事業の成功に確信が持てずにいましたね。
――1 年目の取り組みから見えてきた課題は? それを 2 年目にどうつなげていったのか
も教えてください。
限定商品をフックに定期的にメディア露出できていたおかげで、
商品の認知も高まり市場に浸透している手応えもありました。一方で、
時季によって売上の波が大きく、先々を見据えた事業運営に課題が残りました。
そこで 2 年目は安定した事業運営を目標に掲げ、シーズナリティに沿って
年間計画を作成しました。商品企画も合同で企画会議を開いてアイデアを出し合い、
目標設定とフィードバックを徹底。繁忙期にきちんと売上をつくることに注力しました。
その結果、いわゆる PDCA サイクルがうまく回り始め、事業の安定と拡大の道筋が
できていったんです。
2 年目の終盤にはさらなる飛躍に向けて、楽天市場のショップ開設するところまで
漕ぎ着けました。
自社 EC サイトだけでは出会えなかったお客様との接点ができ、全国各地に
「はにわぷりん」をお届けできるようになりました。
1年目は売れるかどうか半信半疑でしたが、2 年目はまったく違います。
「永続的にシェアをとれる商品だ」と胸を張って言えるようになりました。
――2年目は積極的に事業に関わっていた様子が伝わってきます。心境の変化などがあっ
たのでしょうか?
1年目に一連のプロセスを経験したことで、事業に対する自信と自覚が芽生えましたね。
事業の規模感を掴めるようになり、現場の対応力も上がってきたので、更に
意欲が湧いてきました。
2 年目以降は、当社の社員からも企画のアイデアを出し、課題があれば一緒に考え
解決していくのが当たり前になっています。
1 年目に仕掛けた数々の企画も、2 年目の私たちの意識や体制の変化も、
事業の継続性を見据えた戦略だったんだな、と合点がいきました。
事業の成⾧と合わせて、私自身も一プレイヤーから経営者へと大きく成⾧させてもらいました。
価値を伝える努力を惜しまない、ブランディングの心得
――2020 年 11 月には、大阪の「なんばマルイ」に実店舗をオープンされたそうですね。
ネット通販で結果を出していながら、どうしてまた実店舗を!?と思いますよね。
今回の出店は、いわば未来への投資です。
最終的な目標は地方から全国へ、新たな市場を築くことです。店舗を構えたなんばは、
地元堺市と大阪市街地を結ぶ発着点。そこに実店舗を持つことで地域市場との繋がりを
深めたいと考えています。
また百貨店のネームバリューで、オンラインではリーチできなかった新しい顧客層への
アプローチとしても効果を見込んでいます。
大きな売上を見込んでいるわけではなく、リアルな場を通じて地域の皆様との
関係性を深めることに重きを置いて運営しています。
――最後に、今後の事業のあり方を踏まえ、どのような会社にしていきたいですか?
当初のイメージでは、物販事業はあくまで本業の飲食事業を支える補助柱のような位置づ
けでした。
その後、「はにわぷりん」の成功によって私の予想はいい意味で裏切られ、
飲食と物販の二軸構造ができあがりました。その矢先にコロナという外的要因が加わり、
現在は物販事業が大黒柱の役割を担っています。
コロナ禍の今こそ物販事業を強化するチャンスと捉え、生産性を高めていきたいと考えています。
そして必ず本業の飲食事業を立て直し、盤石の二軸構造を取り戻す覚悟です。
飲食事業と物販事業、両輪で走れるようになった時に、3 年前に描いた強固な経営基盤が
完成すると確信しています。